七月に入ったと思ったらもう七夕様。我家の庭では小さかった秋桜の芽があっという間に大きくなってきた。もしかしてと思って探したら、もう二輪も咲いている。紫陽花はお仕舞がけに好き好きな色で化粧した。
夕方を待って蛍を見に行く。6月下旬から飛び始めた。十数年昔には川も、田圃も、両岸の山も数え切れないたくさんの源氏蛍が乱舞した。年寄りや子供達を誘って大勢で見に行った。ある年に大水が出て河貝子(かわにな)が流されてしまったのか、ピタリと出なくなった。そして誰も見に来なくなった。それでも栗の花が咲いてあの生臭い厭なにおいのする頃になると、もしかしてと期待して毎年見に行っている。
ここ数年は少しずつ増えてきた。今年は一昔前とまではゆかないが、たくさん出てくれている。瀬音を聞き乍ら、だんだん暗くなってくる川岸で一人座って目を凝らしていると、あちこちでポワーポワーと淡い緑色の光を灯し乍ら蛍が飛び始める。あちらで一組、こちらで一組とカップルが出来ると、邪魔者が入って三角関係になってカップルは壊れる。すると又、次のカップルが生まれる。
8時を過ぎた頃、たくさんのカップルが山にも川にも田にも光り出す。超スピードであっちからこっちへ飛ぶのもいる。
9時頃になると、カップルは成立して一時藪に入ってしまう。でも暫くすると又立ち始める。
河鹿蛙(かじかかえる)もキロキロキロと透き通った可愛い声で鳴く。
晴れた空には無数の星が煌めく。高く飛ぶ蛍とこの星達とが競って輝く。
良く晴れて、月もなく真っ暗で、他の物音一つしない中で、瀬音と河鹿蛙の鳴く声を聞き乍ら、源氏蛍の大きな灯が無数に乱舞する様はとてもこの世のものとは思えない。
もしもあの世がこんなのだったら行ってみたいと思う。
かしもむら なかしまのりお